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タオルの素材のはなし(3)天然繊維「麻」の種類と特徴
2020-12-24
可憐な青い花を咲かせる「亜麻」
タオルの素材のはなし、3回目は、INNER PEACE「リネン」にも使われている「麻」について。さらりとしたシャリ感のある肌ざわりから、シャツなどの衣服の素材として今も親しまれていますが、実は綿以上に、人類にとってなじみ深い、歴史の古い天然繊維なのです。そんな知られざる「麻」の種類や特徴、過去と現在についてご紹介いたします。
「麻」とは
日本では古来より「麻」といえば大麻 (ヘンプ)と苧麻 (ちょま/ラミー)を指していましたが、亜麻(リネン)などの他種が海外より持ち込まれたため、これら植物から採れる繊維を総称して「麻」と呼ぶようになりました。麻袋によく使われる「ジュート」や、紙の原料で有名な「ケナフ」も麻の一種です。
「麻」の種類は20種類以上ありますが、日本の家庭用品品質表示法で「麻」と表示できるのは、苧麻(ラミー)と亜麻(リネン)の2種類で、現在日本で流通している布地のほとんどは、亜麻(リネン)です。
日本における「麻」=大麻・苧麻
日本の生活・伝統文化を支えた「麻」
前述したように、日本では「麻」といえば大麻、そして苧麻でした。古くは縄文時代初期の遺跡から大麻製の縄が、弥生時代の遺跡からは布片が出土されており、約1万年前から日本人の暮らしに麻が根付いていたことが分かります。
麻は穢れを拭い去る力を持つものとして、神事にも多く使われていました。宮中行事である「大嘗祭(だいじょうさい)」に使われる神聖な神衣、麁服(あらたえ)や、神社で御祓いに使われる神具(大麻・おおぬさ)、しめ縄や鈴縄、横綱の化粧まわしなど、日本の伝統文化にも欠かせないものでした。
万葉集や日本書紀にも歌われるほど、麻は人々の生活や文化に身近な繊維であり、戦国時代に木綿の栽培が広まるまでは、糸・縄・網・布・衣服などに幅広く使われました。木綿の普及後も、麻繊維の強度が重宝され、第二次世界大戦までは軍需産業として活用されていました。終戦後はGHQの指示によって大麻が禁止され、現在では大麻栽培は許可制となっています。(繊維に使われる茎部分は薬理作用を含まないため、繊維の使用は違法とはならない)
現在ではネガティブなイメージが強い大麻ですが、日本の生活・文化を語るには欠かせない、歴史ある植物だったのです。
西洋における「麻」=亜麻(リネン)
「月光で織られた生地」と呼ばれ、時を超えて愛される布
「東洋の麻」が大麻や苧麻なら、「西洋の麻」は亜麻、つまりリネンでした。リネンは人類最古の繊維とも言われ、紀元前8000年頃のメソポタミア文明発祥の地、チグリス・ユーフラテス川に生えていたことが確認できています。
古代エジプトでは「Woven Moonlight(月光で織られた生地)」と称され、ミイラを包む布や神官の衣装など、神事にも使用されていました。聖書の記述では、キリストの遺体を包んだ布もリネンだったといわれています。
もともとは王族や貴族などの、身分の高い人たちがリネンを使っていましたが、その後ヨーロッパ中に広まり、一般市民の間でも親しまれるようになりました。シーツ、バスタオル、バスローブなどの布製品のほとんどにリネンが使われるほど、日本同様、ライフスタイルに欠かせない身近な素材でした。その名残で、「リネン」はシーツやタオルを表す言葉として、ホテルや病院などで使われています。
ヨーロッパで続く、リネンの伝統
現在世界のリネン生産高はヨーロッパが90%以上を占めています。その内フランスが8割ほどを占め、次いでベルギー、オランダ、東欧諸国が続きます。INNER PEACEの「リネン」で使用しているのも、このフランス・ベルギー産の「ヨーロピアンリネン」です。
亜麻は英語で「フラックス」と呼ばれ、そのフラックスで作った糸や布が「リネン」と呼ばれます。フラックスは非常に生命力が強く、1回収穫すると土が痩せてしまうため、7年は別の作物をつくり地力の低下を防ぐ輪作(りんさく)を行う必要があります。土の養分を吸い尽くす勢いでぐんぐん育ったフラックスが、丈夫で美しいリネンとなるのです。
「麻」の特性
古代より世界中の人々に親しまれてきた「麻」。それほどまでに愛用されるのは、布地としての高い機能性があったからといえます。ここでは、現在の一般的な「麻」である「リネン」の特性をご紹介します。
さらりとした肌ざわりと光沢感
リネンの大きな特徴は、独特なハリとシャリ感のあるさらっとした肌ざわりです。苧麻(ラミー)や大麻(ヘンプ)は繊維が硬いためハリやコシが強く、ザラザラした肌ざわりに対し、やわらかくしなやかなのがリネンの良さです。また、リネンは使うごとに風合いが増し、くったりとやわらかくなっていくので、長く使いながら、リネンを「育てる」感覚で楽しむことができます。
耐久性が高く丈夫
麻繊維は天然繊維の中で強度が最も高く、羊毛の4倍、綿の2倍といわれています。さらに、水を含むと繊維が膨らんで密度が高まり強度が増すため、洗濯にも強く、長持ちします。その耐久性を利用して、アメリカのドル紙幣にはリネンを25%ほど配合しているそう。ちなみに日本のお札も「マニラ麻」という繊維を含んだ特殊な和紙を使用しているのだとか。
綿を超える吸水性と速乾性
リネンは綿の4倍も水分を吸収し、同時に発散も速く、速乾性に優れています。その理由は、繊維の中が空洞になっている「中空構造」によるもの。水分をさっと吸い取ってすぐに乾くので、汗や湿気の多い季節でも快適に過ごすことができます。
優れた通気性と保温性で、1年を通して使える
繊維の中空構造により空気を通しやすく、べたつくことなく常にさらりとした状態が続きます。また、麻繊維は熱伝導性も高いので、湿気とともにたまった熱をすばやく外に放出します。この特性から、夏向けの素材と思われがちですが、実は寒い季節にも高い効果を発揮します。繊維の空洞部分に暖かい空気を溜め込むため、体温による熱を逃すことなく暖めてくれます。この天然の温度コントロール機能が、世界中で愛用される大きな理由といえます。
抗菌作用が高く、衛生的
リネンの繊維に含まれるペクチンにより、汚れが染み込みにくく、汚れても落としやすい効果があります。そのため雑菌の付着や繁殖を抑制する抗菌性にも優れています。毛羽落ちも少ないので、安全で衛生的に使用することができます。ミイラを包む布にリネンが使われたのは、この特性に加え、防虫効果もあったからともいわれています。
混紡性に優れる
リネンは、綿などの他繊維との混紡などを行っても特性を失うことなく、相手繊維と相まって独自の新たな風合いを生み出すのが特徴です。INNER PEACE「リネン」は87%の綿に13%のリネンを混紡しているので、ふんわりやわらかい綿に、リネンのシャリ感や機能性をプラスした、使い心地の良い、さらりとしたタオルに仕上げています。
実はサステナブル素材!
農薬や化学肥料を大量に使用する綿と比べて、「麻」は農薬・化学肥料をほとんど使わずに栽培が可能です。生育のスピードが速く、痩せた土地や少ない水でもすくすくと育ちます。また、生育の過程で大量のCo2を吸収してくれる、実は環境に優しいエコな植物なのです。
リネンの元となるフラックスは収穫の際、根っこから抜き取られ、繊維から種・根にいたるまで、捨てることなく有効活用されています。茎の繊維から取ったリネンはもちろん、残りを紙の原料や肥料に使ったり、実からは、画材などに使われ、健康食品としても有名な亜麻仁油(リンシードオイル)がとれます。
サステナブルな社会の実現が求められる今、石油由来の化学繊維ではなく昔ながらの天然繊維が見直されてきています。丈夫で長持ちし、環境に配慮した栽培が可能な麻繊維の積極的な活用も、エコ活動の1つといえますね。
人類最古の繊維といわれるほど、人々とともに歩み、生活や文化を支えてきた「麻」。時代が変わった現在でも、暮らしに溶け込む自然素材として、変わらず愛されています。今回ご紹介したヨーロピアンリネンを使用した、INNER PEACE「リネン」もぜひ手に取ってみてください。リネンならではのさわやかな肌ざわりがクセになるタオルですよ!
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